2016-2017 染谷 孝

日本洞窟学会会長 染谷 孝
(佐賀大学農学部 教授)

 日本洞窟学会の会員の皆さん、第20期(2015年~2016年)に引き続き、第21期(2016年~2017年)の会長に選出された染谷です。今期も、浦田健作・近藤純夫両副会長とともに、また評議員会、各種委員会、事務局の皆さんと協力しながら、本会発展のために力を尽くしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 染谷の研究領域は「洞窟微生物学」です。ムーンミルクが微生物の作用でできているということを、もう少しで実証できそうなので、ワクワクしています。なお、「過去の会長挨拶」欄に自己紹介的な文章がありますから、詳しくはそれをご覧下さい。

 さて本会の前身は1956年に設立された日本洞窟地下水研究会(The Speleological Society of Japan)で、1975年に日本洞窟学会(The Speleological Society of Japan)として発足し、国際洞窟学連合(UIS)の一員になりました。当時日本には日本ケイビング協会(Japan Caving Association:1959年設立)と日本洞窟協会(The Association of Japanese Cavers:1978年設立)という組織もあり、それぞれ特色がありましたが、これらが本会と大同団結して新生日本洞窟学会が1996年に発足し、さらに日本火山洞窟学協会(現、NPO法人火山洞窟学会:NPO Volcanospeleological Society)の協力のもとに、洞窟科学(Speleology)と洞窟探検(Caving)に関わる全国組織となりました。本年(2016年)は創立41周年、合併後20周年になります。

 本会は現在も、解決すべき様々な問題を抱えています。洞窟事故防止は本会の最重要課題の一つです。関連して、救助体制 ・技術の向上 ・普及、洞窟管理者(自治体、地主)との連携も、本会の洞窟救助委員会や評議員・会員の努力により各地で進められていますが、さらに推進する必要があります。

 洞窟の保護 ・保全や洞内マナーの向上については、2014年に「ケイビング・洞窟調査を行うにあたっての倫理規定・行動規則」を整備しました。この骨子は九州洞窟談話会や関西洞窟談話会などで活用され、会員やケイバーに浸透しつつあります。

 ところが、国立公園や特別保護地区、天然記念物内での許可を得ない洞窟調査や試料採取と思われる行為が散発しています。これらは必ずしも本会会員によるものとは限りませんが、コンプライアンスの周知徹底は国民に対する本会の義務として、極めて重要なものです。本会会員はもとより、広く国民への啓発活動を進めます。

 さらに海外洞窟調査では、生物多様性条約に関わる名古屋議定書の精神を尊重することが強く求められます。動植物や微生物などの遺伝資源・生物資源から得た利益を、原産国と利用国が分け合うべしというものです。探険・調査という行為には戦前まで、「学術調査隊」と称して他国の資源情報を収集し、植民地化するための先兵になっていたという黒歴史があります。現代では、調査地の国から科学的知見や資源を収奪することがあってはなりません。

 さて国内大会に関しては、七釜大会(2014年)、高知大会(2015年)に続き、今年(2016年)は苅田町平尾台大会が開催予定で、来年度(2017年度)の開催地候補も挙がってきています。これらの大会の成功は、それぞれの大会関係各位のご努力の賜物と感謝いたします。特に巡検が充実してきていることは、本会の特長として誇るべきものであり、今後とも維持発展したいものです。

 このほかにも、ケイビングジャーナルの編集体制の充実、洞窟学雑誌のプレゼンスの向上、海外との連携強化も課題です。これらの推進には、組織とし意工夫をこらした活動を支援していく体制づくりも必要です。なによりも、洞窟探検のワクワク感をより多くの国民に広め、安全で知的な野外活動として発展させるために、また地球史を解き明かすユニークな学問分野としてますます発展させるために、皆さんのいっそうのご協力・ご支援をお願いいたします。

2016年4月3日