国際洞窟学連合:
昨日、今日そして次の4年に向けて
George Veni(博士)
UIS会長
(日本語訳:山口文恵、大河内亜由美)
国際洞窟学連合(以下“UIS”)は、洞窟に関するあらゆる事柄についての国連のような団体で、現在、53の国々が加盟しています。これは、新たに選出されたUISの会長としての、私の最初の年会報です。この会報は、加盟国のケイバーに、UISという組織そのものと、UISが立てている計画や案、そしてどうしたら私達が一丸となって洞窟学のレベルを世界的に上げることができるかを知ってもらうためのものです。
まず最初に、UIS加盟国は、UISの総会に代表として出席する者を選出します。ほとんどの国では、国を代表する洞窟団体は一つで、その組織が代表者を選びます。洞窟関連の全国組織が複数ある国では、組織同士が相談して国の代表者を選びます。どちらの場合でも、選ばれた者はその所属組織ではなく、その国の洞窟に関するあらゆる関係者の代表となります。
総会は、UIS加盟国主催の、4年に一度の洞窟学国際会議の中で開催されます。総会では、次の4年の間についての事柄を決定します。そのうちの一つに、新しい事務局の選出があります。事務局はUISの通常業務を行い、またUISの掲げる目標を達成するための新しい計画を進め、実行していきます。
UISの目標:洞窟とカルスト、それに関連する地形などに興味を持つ世界中の人たちの親睦を深める。あらゆる分野(科学、技術、文化、スポーツ、社会、経済)における洞窟学の発展と推進。世界各地の洞窟とカルストの自然遺産を、持続可能な発展のため、洞窟に関する活動や調査が行われている全ての場所で適応可能な方法で保護及び管理を行う(UIS会則より)。
各事務局のメンバーはそれぞれ異なった国から選出され、異なった職務を遂行します。幹部(会長、事務局長、副会長2名、会計)の職務は内規により決められています。残る7人の事務局補佐の職務は、その能力と関心に合ったものを担ってもらうため、またその時々のUISの必要性に応じるため、柔軟性を持たせています。
現在の事務局メンバーは2017年7月にオーストラリアで開催された国際会議にて選出されました。
·
会長:George Veni博士 (アメリカ)
· 事務局長:Fadi
Nader博士(レバノン)
·
副会長(管理担当):Zdeněk Motyčka (チェコ)
·
副会長(業務担当):Efrain Mercado (プエルトリコ)
·
会計:Nadja Zupan Hajna博士 (スロベニア),
事務局補佐は以下の方々です。
·
Bernard Chirol (フランス)
·
Nivaldo Colzato (ブラジル)
·
Mladen Garašic博士(クロアチア)
·
後藤聡 (日本)
·
Gyula Hegedus (ハンガリー)
· Tim
Moulds博士 (オーストラリア)
·
Bärbel Vogel (ドイツ)
皆さんはいつでも我々事務局メンバーに連絡を取ることができます。連絡先はあなたの国の代表者、私達が発行している全ての文書、そしてより多くの情報をUISのウェブサイトwww.uis-speleo.orgから得ることができます。
さて、多くの人が抱いている質問にお答えしましょう。UISはあなたに何をもたらしてくれるのでしょうか?
国際洞窟学会議に出席したことはありますか?私が初めて出席したのは1981年で、それはまさしく私の人生を変えました。洞窟学が単なる遊びから科学研究の対象へと変わりうるということを教えてくれたのです。UIS会議は私を世界中のケイバーと繋げてくれ、また数々の探検と、後の指導教員に会う機会も与えてくれました。UIS会議への出席が私にもたらした最も重要な事は、私の中に洞窟学に関するあらゆることに対しての興味を起こさせ、それは幸運なことに今も私を前進させてくれているということです。そしてこれは私にのみ起こったことではありません。多くの他のケイバーも同じような経験をしています。次の国際洞窟学会議は2021年にフランスのリヨンで開催される予定です。今後、UISのウェブサイトで情報をご覧ください。
ケイバーにとって、UISと関わって恩恵を得るための一番良い方法はUISの委員会に参加することです。委員会とは、洞窟学のある分野に特化した専門的なグループです。委員会には洞窟救助委員会、技術・装備委員会などレクリエーション活動としてのケイビングのためのもの、また、洞窟生物学やカルスト水文学、洞窟形成学などの高度な科学的分野を専門とするものもあります。疑似カルスト委員会や火山洞窟委員会など、多くの委員会ではファンケイビングを行うケイバーと科学者が共に集まっています。UISには22の委員会があり、ほぼ全ての洞窟学の分野をカバーしています。委員会に参加するには、UISのウェブサイトで興味のある委員会を見つけ、委員に参加したい旨を伝えるだけでよいのです。お金はかかりませんし、活動的で委員会の内容に興味のある方なら歓迎されるでしょう。UIS事務局は、委員会の目標を達成するのを援助するために毎年2000ユーロを上限に補助しています。
UISのウェブサイトを訪れたら、洞窟に関するたくさんの知識やイベントなどの情報が手に入れられます。委員会のウェブサイトはたくさんの専門的なニュースや情報に溢れています。「カルスト情報ポータル(Karst
Information Portal)」は、洞窟に関する全ての事柄について探すことができる無料のオンライン図書館です。UISのプロジェクトの一つであり、他組織と協力して作られました。もしあなたのクラブの会報がポータルに上げられていない場合、是非載せることを検討してみてください。他の洞窟界の皆さんとあなたの業績を分かち合うチャンスです。UISの「国際洞窟学雑誌 (International
Journal of Speleology)」は洞窟の科学的情報の発信元としては世界で最も重要な機関誌です。José Ayrton Labegalini 元会長による書籍「UISの50年:1965〜2015年(Fifty
Years of the UIS, 1965-2015)」はUISの歴史と現在の洞窟学を知るのに最適です。UISが今何をしているか、どのようにUISに関われるかを知りたい場合は、最新の会報「UIS
Bulletin」をご覧ください。
UISのとても重要な特徴は、洞窟学はスポーツの専門家と学術の専門家が依存し合っているテーマであるということです。スポーツケイバーは洞窟を発見し、探検し、測量をします。ケイバー達の努力により科学者達の研究が可能になります。科学的成果は、洞窟が価値あるもので、適切に管理される必要があることを証明します。教育者が一般市民と政治家達に洞窟の重要性を教えることにより、さらなる探検を可能にする洞窟とカルスト地域の保護につながる ・ ・ ・このように循環が繰り返され、拡大していきます。
UISは、遠征や会議への出資(部分的なものも含む)、訓練や研究プログラムの企画、洞窟・カルストの最善の管理をするための観光洞や政府に対する支援を行ってきました。昨年、オーストラリアで行った国際会議の際、UISは国際観光洞協会との重要な覚書を更新しました。それ以降、事務局は他の主要な科学的・政治的協力を進め始めました。2017
年11月にはUISは国連非政府組織(NGO)として認定されました。
UIS事務局の私達は皆、ケイビングに行くよりも、洞窟学を皆にとってより良いものとするため、以上のような協力関係を築いています。これらの関係は研究、管理、教育のための財政的支援を得る機会になります。一般的に探検への資金提供があまりないことから、UIS事務局は現在、より多くの遠征やプロジェクトを支援するための資金を他の財源から集める方法について特に検討しています。先頃、UISはキプロスでの洞窟探検、測量、研究プロジェクトのために欧州連合から資金を確保することを支援しました。洞窟学のすべての側面は重要で、つながっており、UISはいずれも軽視しません。
そろそろ皆さんはUISの将来計画について疑問を抱いていることでしょう。2015年のUISの50周年祝賀会で、Kyung
Sik Woo 会長(当時)は、2021年を「洞窟とカルストの国際年」とするよう国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)に働きかけることを明らかにしました。国際年は世界的規模で一般市民に対して重要なテーマを広めること、一般市民と行政機関の支持を得ること、探検・研究・管理やあらゆる必要なことへの資金援助や機会を増やす大きなチャンスです。
2015年以降、UIS事務局は国際年のために熱心に取り組んできました。これまでに4カ国(ベルギー、クロアチア、ハンガリー、スロベニア)、8つの国際機関、12カ国にある21の国家機関から支援を表明する公式文書をいただきました。この進捗はありますが、私達にはユネスコへ国際年の提案をする国が必要です。ユネスコ加盟国だけが提案でき、外部機関は提案ができません。いくつかの国が提案をすることを検討してくださっていますが、国際年の決定に影響を及ぼすような私達の働きかけ以上に政治的な駆け引きがあります。私達は今も待ち望み、支持を得るための新しい戦略を練っています。例えば、ユネスコではなく国連へ提案することもできるでしょう。もしあなたがあなたの国に公式な支持を依頼したり、洞窟とカルストのための国際年について提案したりするための人脈をお持ちの場合は、私にご連絡くださいますようお願いします。ユネスコの次回総会は2019年後半に開催されるため、それまでに提案国が見つかることを期待します。
国際年に対する私達の取組がもし成功すれば、UIS全加盟国に洞窟学を盛り上げるための行事や活動を各国で企画していただく必要があります。もし成功しない場合でも、洞窟やカルストが重要であることを一般や政府に示すため、それらの活動を2021年に実施することがより一層重要になります。あなたの組織がどのような行事を企画できるか、検討しはじめてください。ユネスコまたは国連の支持が得られるととても素晴らしいのですが、もし支持が得られなかったとしても、私達自身で国際年を実施することもできます。どちらの場合にも対応できるよう、私はアイデアや具体的なリクエストを追ってお伝えします。
UISがあなたに何をもたらすかを考えるときは、あなたがUISのためにできることを思い浮かべてみて下さい。UISはボランティアの組織です。成功は、私達全員のためです。ですが、その成功は洞窟学関係者が力を合わせることで実現します。もちろん、あなたが直接、UISに協力することもおすすめしますが、地元・地域・国の組織を支援することもUISの助けになります。単独より協働の方がはるかに多くのことができるのです。
ケイバーが洞窟学講習、洞窟保護、出版、研究、そして昨年、シドニーで私達が楽しんだようなすばらしい国際会議の企画準備にも手伝いを申し出ることに、私はいつも感銘を受けます。さらに、集団として、ケイバー達は問題解決のために最も順応性があり、創造性に富むことに気付いたのです。あなたの支援により、次の4年間が洞窟学にとって最高のものになり、そしてUISにとっても最高のものになるでしょう。もしUISのために何かアイデアがある場合や、質問をするために私に連絡したい場合や支援を申し出たい場合は、どうぞ私(gveni(at)nckri.org)にご連絡ください。あなたと共に働くこと、そしてUISおよび洞窟学の発展を楽しみにしています。
(※訳者注:メールアドレス内の「(at)」は@(半角アットマーク)に置き換えて下さい。)
|
||
UISは、1965年にUISが設立された地である スロベニアで法人組織化されています。 ポストイナ(スロベニア)にある |
UISロゴ |
|
|
||
UIS会報表紙 |
DSC_8844: Julia James 博士(UIS元会長)による |
|
UIS事務局(2017〜2021年) 左から右:Efrain Mercado,
Gyula Hegedus, Mladen Garašic, Zdeněk Motyčka, 後藤聡, George Veni, |
||