竪穴探検技術
後藤 聡著
Ver1.0(98/10/26)
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左:ラダー&ライフライン、
右:SRT、複数のアンカーを使いロープが岩に触れないようにしている |
竪穴探検とは
洞窟内には、多かれ少なかれ、上下の落差のある段差や井戸上の穴が開いている。
その落差は1mのこともあれば、100mを越えることもある。短い距離で、
足場が多い場合にはチムニーなどの技術で乗り越えることが可能であるが、
距離が長くなればなるほど、そうした手法は取れくなる。また、たとえ2mの段差であろうとも
足場も何も無ければ、乗り越えることが出来ない。
だからといって、そこで探検を諦めるということはなかなか出来ることではない。何とかして、
乗り越えて先に行きたいと思うだろう。こうした場合に登場するのが竪穴技術である。
洞窟の成因や、探検形式を考慮すると、地表から地下へ降りていくことがほとんどであるため、
洞窟の中へ降りて、そして登るという技術が基本となる。
その逆の登って降りるという状況は、必要とする労力も大きいこともあって、
登った先に何かがあるとの確証が得られない限りはあまり行われない。たとえば、滝があって水が落ちてくるとか、
風が吹き降ろしてくる、あるいは続いていそうな穴が視認できる場合などである。
したがって、通常竪穴探検技術というのは段差を降下し、登り返す技術を指すと思って良い。
洞窟内の壁を登って降りる場合には登攀技術と呼ばれ、区別されている。
竪穴の探検は確実に習得しなければならない技術が多く、また誤った方法を行うと、
生命の危険を伴う場合がある。したがって、竪穴探検をゼロから始めようという場合には、
適切な指導者の指導を受けて行うべきである。その方が、安全であるし、習得もスムーズに行える。
もちろん指導者なしに、書籍や試行錯誤で徐々に習得する事もできるし、
多くの場合(たぶん99%近く)は問題なく探検を進めていく事が可能である。
困った事にそうした場合、潜在的な危険を抱えたまま探検をしていることに、
本人達はまったく気がついていないことがほとんどである。
実際、誤った方法や装備で竪穴探検をしているパーティに度々出会う事がある。
滅多に起きる事ではないが、何らかのトラブルが彼らに発生した場合に、彼らが事態に対処する事ができなかったり、
怪我人をだしてしまうことは容易に想像できる。
竪穴探検は二つの方法がある。一つはラダー&ライフライン(Ladder&Life line)による方法で、
もうひとつがSRT(Single Rope Techniques)である。
ラダー&ライフラインはワイヤーラダーと呼ばれる、直径3-4mm、長さ10mのワイヤー二本の間に、
アルミかアルミ合金製のステップをつけた縄ばしごと、ラダーから足を滑らせても、
落下することのないようにするためのライフライン(確保ロープ)を用いる方法である。
SRTは直径9-11mmのスタティックロープ(クライミングで使うザイルに似たもの)を使い、
そのロープ上をアセンダー、ディセンダーと呼ばれる器具を利用して昇り降りするものである。
両者の方法の特徴を以下に示すが、その特徴の境界には曖昧なものもある。
竪穴探検方法による特徴
| 条件 | Ladder&Life line | Single Rope Techniques |
| 洞窟の形態 | 深さ | 浅い方が良い | 深い方が良い |
| ピットの数 | 少ない方が良い | 多い方が良い |
| ピットの形状 | 垂直で単純な方が良い | 複雑な形状でも可 |
| 壁の状態 | 壁が脆くても何とかなる | 壁が脆いと厳しい |
| パーティの状態 | 人数 | 大人数に向く | 小人数に向く |
| 竪穴の経験 | 初心者が混じっていても可能 | 地上で多くの訓練を受けた人のみ可能 |
| コスト、投資費用 | ラダーやロープの10m分の価格 | 高価(2-3万円) | 安価(2-4千円) |
| ラダー、ロープ以外の初期投資 | 安価(2-5万円) | 高価(4-8万円) |
| 個人の初期投資 | 安価(1-2万円) | 高価(3-5万円) |
| 装備の消耗 | 遅い | ロープの消耗が早い |
| 長期の使用での総費用 | 安価 | 高価 |
| 各技術毎の特徴 | 総重量 | 重い | 軽い |
| 容積 | 大きい | 小さい |
| 疲労度 | 大きい | 少ない、途中休憩が容易 |
| 登高速度 | 疲れない範囲なら早い | 長距離ほど有利だが、短距離は不利 |
| リギング(竪穴にロープなどを設置する作業) | 簡単 | 豊富な経験が必要 |
| レスキューへの応用 | 難しい | 容易 |
| 清掃などのメンテナンス作業量 | 多い | 少ない |
どちらの方法を竪穴探検に使用するかは、上記の特徴により判断される。判断するための材料は多く、
実際の洞窟では、項目によって相反する判断となることもある。どの項目を優先するかは、
慎重に考慮すべきである。
たとえば、費用の問題での選択というのは下位に置くべきだろうし、
人の入れ替わりが激しく初心者が多い団体の場合はラダーしかとるべき手段は無いかもしれない。
しかしながら、結局のところ、どのような方法をとるかは、グループの歴史的な背景や、
好みの問題に属するものである。
日本で活動しているクラブの傾向としては、クラブ員が多く入れ替わりの多い大学のサークルではラダーが良く使われ、
クラブ員が少なく入れ替わりの少なく、訓練を多く積んだ人の多い社会人サークルではSRTが良く用いられる。
また、学生サークルか社会人サークルであるかに関係なく、海外遠征を行う団体はSRTの使用がほとんどであるし、
活動地域に深い竪穴が無ければラダーとなっているか、そもそも竪穴探検をしていない場合もあるだろう。
竪穴探検の歴史
竪穴探検は1800年代末ごろから始められた。著名な洞窟探検家であり、
洞窟学の創始者として知られるフランスの弁護士、エドゥアール=アルフレ・マルテルは、
1880年頃から1930年頃にヨーロッパ各地を巡り、多くの洞窟を探検し調査した。彼は縄ばしご
と命綱を用いて竪穴も多く探検している。
その中でも1895年に英国の有名なゲーピング・ギルを探検した話は有名である。彼のグループによって、
洞窟探検の手法は体系づけられていった。
その後、1960年頃までは、ラダーとライフラインを用いた手法と、
ウィンチでワイヤーを上下させて竪穴を昇り降りする方法が用いられた。しかし、
ウィンチを使う方法は装備が重く扱いにくいことと、故障することが多かったため、徐々に使われなくなった。
特に、1960年代頃に米国で開発されたSRTの普及によって、ウィンチによる探検の時代は終わった。
このSRTは徐々に改良を加えながら、世界各地に広まり現在に至っている。
その際に各地域の洞窟の違いにや国民性などからか、SRTのスタイルも地域毎に微妙に異なっている。
大まかに言えば、米国を中心としたアメリカンスタイルと呼ばれる手法と、
欧州を中心としたアルパインスタイルである。米国では乾燥した単純なピッチが多く、
欧州では滝のある複数のピッチを持つ洞窟が多い傾向があるというところが、
分化の理由ではないかと推測できる。
なお、近年は米国でもアルパインスタイルのSRTが取り入れられつつあるようだ。
日本においては、洞窟探検は1920年頃から本格化し始めた。1956年には日本洞窟学会の前身でもある、
日本洞窟地下水生物研究会が発足し、多くの竪穴が縄ばしごによって探検され始めた。
1956年には日本第二位のロングピッチを持つ椿穴が探検され、
翌57年にフランスのコアフェ博士よりワイヤーラダーがもたらされ、
ワイヤーラダーによる探検の時代を迎え、1960-1975年頃にかけて日本最深の洞窟などが探検されていった。
しかし、日本最深の白蓮洞で1976年に事故が発生し、死者はでなかったものの、
それ以降、この日本でもっとも深い洞窟群のある地域のケイビングが禁止され、現在に至っている。
SRTは1971年にアメリカのケイバーによって紹介されたが、本格的な普及を始めたのは1980年代に入ってからのことである。
当初はアメリカとヨーロッパとの中間的なスタイルでのSRTが主流であったが、
1990年代に入ってからヨーロッパで行われているアルパインスタイルのSRTが主流となっているが、
一部地域や団体では異なるスタイルのSRTも行われている模様である。
竪穴探検技術の紹介
ここからリンクしているラダーやSRTなどの項目は、その関連する技術の全てについて記載しているわけではない。
なぜならば、実際に竪穴探検を行うならば、経験者からの指導を受けることが前提であるから、
Webページに全ての技術を載せる意義が無いからである。また様々な洞窟の状況に応じて、
確実に安全に竪穴探検を行うための技術というのは、それだけで100ページを越える書籍となるボリュームがあるので、
Webページ上に全てを載せるのが難しいということもある。
そのため、ここでは各技術の簡単な紹介にとどめてある。
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