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ラダー&ライフライン(Ladder and Lifeline)


後藤 聡著
Ver1.0(02/07/25)


LaderAsent
ラダーを登る。手と足を
ラダーの反対側に回すこ
とで、安定的に登れる
 一般にはラダーと呼ばれているが、 洞窟で使用する際には常に安全確保のためのライフライン(確保ロープまたはビレイロープとも言う)が使われるので、 ラダー&ライフラインと呼ぶべきだろう。

 ラダーは直径3-4mmのワイヤー2本の間に直径12-15mm、肉厚2mm、幅15cm程度の ジュラルミン製のステップを25-35cm間隔で取り付けたワイヤー梯子のことである。 ワイヤーの両端にはCリンクと呼ばれる連結用の金具が取り付けられており、 ラダー同士を接続できるようになっていて、竪穴の深さに応じて調整できる。 ラダーの長さは10mが標準的で最も多いが、5mや20mといった長さのものも使われている。

 ライフラインには直径10-11mmのダイナミックロープ、状況によってはスタティックロープが使われる。 このロープをラダーを昇り降りする人のハーネスに結びつけ、 昇降者がラダーのステップから足を滑らせても落下することがないようにする。 ライフライン用のロープは竪穴上部でビレイデバイスと呼ばれる確保器によってコントロールする。 確保器には様々な種類のものが使用できるが、良く使われるのはエイト環、Petzl社のSTOPなどである。
 ボディビレーといって、確保器を使わず体で確保を行う方法もあるが、 竪穴上部の不安定な足場では確実に行いにくいことと、しっかりとしたビレイアンカーがあることを考えれば、 あえてボディビレーをする必然性はなく、行わないほうが良いだろう。

 ここで紹介した事柄は、ラダー&ライフラインでの探検を行う上で必要な知識と技術の内の、 ほんの僅かな部分だけである。ラダー&ライフライン技術で必要となるハーネスやセィフティコードなど、 個人の装備についてはまったく説明していないし、ラダーやロープの固定方法も詳しくは記載していない。
 したがって、ここで述べられていることは、概要の紹介であって、 ラダー&ライフラインとはどのような技術であるのかを、 おぼろげに理解してもらうためのものであることを忘れてはならない。 ラダー&ライフラインによる探検を行う場合は、 既存のケイビングクラブなどの経験者のグループによる指導を受けるべきだろう。
 なお、ライフラインを体に接続する場合には、必ずハーネスを用いること。 ハーネスなしで、腰にもやい結びでロープを直に巻いて代用する事が、過去に行われていたが、 この状態でラダーから体が離れロープにぶら下がった場合、 胸が締め付けられ呼吸困難と血行不良に見舞われ、短時間のうちに意識を失うか死亡するであろう。


LaderRig
LaderRig PitHead
上:竪穴上部でラダーを設置している。ラダーは
  竪穴に投げ込まず、先端から順繰りに降ろす。
左:不安定な場所でのラダーの設置の際、確保を
  とる必要がある
右:ピッチヘッドのラダーやロープの設置の様子

リギング(ラダー&ライフラインの設置)

ラダーなどを洞窟の壁などに取り付け、竪穴に降ろして、 昇り降りが出来るようにする作業をリギングと呼ぶ。
 ラダーやライフラインは、確実に固定されなければならない。 洞口の側に転がっている大きな岩に、適当な結び方でラダーやロープを固定して降りたらどうなるだろうか? 体重を掛けた瞬間に岩が転がって落ちてしまうかもしれないし、結び目がほどけるかもしれない。そうならないように、 ラダーなどを何処に固定するかを慎重に見極める能力と、そしてロープの結び方などの確実な知識が求められる。
 ラダーなどを固定する場所は、アンカーと呼ばれる。自然にある岩や木などを利用するナチュラルアンカーと、 壁に人工的にボルトを埋め込んで作る、アーティフィシャルアンカーとがある。 良いナチュラルアンカーは非常に丈夫で信頼できる。木であれば、少なくとも直径20cm以上は必要であろうし、 石塔であれば、斜面に転がっておらず、母岩としっかり繋がっていることや、 ひび割れなどが無いなどの状況を見極めなければならない。
 アーティフィシャルアンカーは埋め込みボルト(エクスパンションアンカーとも言う) かケミカルアンカー(レシンアンカーとも言う)を使用する。 ハーケンやリングボルトは強度不足で、手で抜くこともできる程度の支持力しか得られないことすらあるので、 ほとんど使われていない。
これらのアンカーは単独で使わず、複数のアンカーを組み合わせて使う。 もし、一つのアンカーが壊れても残りのアンカーが荷重を支え、事故を防ぐことが出来るからである。
 ラダーはスプリーダーと呼ばれるワイヤー金具によりアンカーに取り付けられる。 スプリーダーを使用せずに取り付けることもできるが、 ラダーのステップが傾いて登り難くなったり、 ラダーを傷める方向の力が掛からないように注意しなければならないなど、若干手間が増す。
 ライフラインもラダーと同様に複数のアンカーを用いて設置する。 テープスリングやロープスリングで複数のアンカーから支点を作り、確保器を取り付ける。 そして、その確保器にライフラインを通して設置する。

LaderDesent 左 :下方を確認しな
   がらエイト環で
   懸垂下降してい
   る。
下 :ライフラインを
   懸垂下降してい
   る。下降器より
   下側のロープを
   持つ手を放して
   はならない。
LaderDesent LaderDesent
左 :狭いクラックを
   降りる。狭い場
   所は昇降が難し
   い。

下降

 ラダー&ライフラインでの竪穴の手法としては、いくつかの方法がある。

 下降方法としては、ライフラインを懸垂下降する方法、 別途設置したスタティックロープを懸垂下降し、同時にライフラインによる確保をする方法、 そして、ライフラインによる確保をおこないつつ、ラダーを一歩一歩降りる方法である。 それぞれに特徴があるが、ライフラインによる懸垂下降は経験の少ない初心者では危険かもしれない。 また、ライフラインによって確保する場合はビレイデバイスを操作する人が十分な経験があれば、 初心者でも安全に昇降が可能であるなどである。下の表に代表的な特徴を載せるが、 詳しい特徴や、具体的な手法については書籍や、経験者の指導を受けて学ぶべきであろう。

下降方法による特徴
下降方法下降にかかる時間装備量備考
ライフラインロープを使用しての懸垂下降 最も早い各個人に下降器が必要初心者が懸垂下降に失敗すると危険
別に用意したスタティックロープで懸垂下降し、同時にライフラインで確保も行う リギングに時間が掛かるが、下降し始めれば早いロープが倍必要で、各自の確保器も必要と最も多い ロープが二本になるため絡むことがある
ライフラインで確保しながら、ラダーを一歩ずつ降りる ライフラインの上げ下げの時間と一歩一歩降りるため非常に遅い最も少ないライフラインを上げ下げする手間が掛かる


LaderAsent LaderAsent
LaderAsent 左上:セィフティコード
   の架け替えで登る。
   アセンダーによる
   追加の確保もとっ
   ている
上 :ピッチヘッドでの
   確保により登る
左 :アセンダー確保で
   登ってきた

登高

 ラダーを登る場合にも、いくつか手法がある。 しかし基本的にはライフラインでビレイデバイスによる、 確保を行いながらラダーを登ることだけである。
 例外的なのは、竪穴上部に確保を行う人がいない最初の一人目が登る場合である。 竪穴上部に待機者を残して探検する場合であれば問題はないが、 そうでない場合には最初の一人目の確保が問題となる。 この問題を回避する方法はいくつかある。 ピッチヘッドに固定されたライフラインをアセンダーで確保しながら登る方法、 ラダーのステップにハーネスに繋がれた二本のセイフティコードを交互に架け替え、 確保しながら登る方法、そしてピッチヘッドに設置したプーリーを介して、 ボトムで確保する方法(フリークライミングでのトップロープとほぼ同じ)がある。 前者二つの方法は兼用されることがある。
 ラダーを登る際は、手の力で登らないようにする。 オーバーハングでは両手と片足(両足でも良い)をラダーの反対側に回すことで、 体とラダーが密着し、足の力で登りやすくなる。 斜面を登る場合には、ラダーの裏側に手足を入れることはできないだけでなく、 表側からも足がステップに乗せられなくなったりすることがある。 こうした場合はラダーを壁に対して傾けたり、手でラダーを手前に引っ張り、 足を入れる隙間を作る方法がある。
 登る距離が長いと、途中で疲れてしまうことがある。疲れきって、 ラダーから手足が離れて落ちライフラインにショックを与える前に、休むべきである。 休む場合はハーネスのメインアタッチメントと接続されている、 セイフティコードのカラビナをラダーのステップとワイヤーの双方に掛かるようにクリップする。 ステップだけに掛けると一つのステップが折れた場合に危険である。



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