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シングル・ロープ・テクニック
(Single Rope Techniques)


後藤 聡著
Ver1.0(98/10/26)


SRTスタイル

 SRTと単純に言うが、発展した経緯や地域的な状況により、様々なスタイルのSRTがある。それらの境界は明確な訳ではないが、大別すると二つに分けられる。アメリカンスタイルとアルパインスタイルである。
 アメリカンスタイルは洞窟への人工物の設置を極力避ける代わりに、太く重いロープや多数のプロテクターを使用する。アルパインスタイルでは、洞窟の中に多くの人工物を設置する代わりに、少ない装備と滝の水を避けるなど、安全により配慮した探検が可能となる。
 アメリカンスタイルは、米国の乾燥していて、洞口からワンピッチ程度の洞窟が多く、多数の複雑なピッチを持つものが少ないことや、メキシコにある深さ数百メートルの井戸状、あるいはドーム状の洞窟を探検する必要があったことなどにより発展したものだ。
 アルパインスタイルは、ヨーロッパ高地の冷たい水が流れる深さ1000mにも達する、複雑で短いピッチからなる竪穴を探検するために発展したものである。
 あなたが、どちらのスタイルを採用するかは、本来、探検する洞窟の状況によるものなのだけれど、高低差100-200m程度の浅い洞窟においては、どちらのスタイルを取っても構わないだろう。ただし、現在の日本でのケイビングもそうであるが、世界的にもアルパインスタイルの方が優勢となっているようである。アルパインスタイルで一般的なフロッグシステムは、アメリカンスタイルで設置されたロープを容易に登ることができるが、アメリカンスタイルで使われる3ギブスシステムでは、アルパインスタイルで設置されたロープを登ることは難しい。したがって、SRTを習得するのにどちらかを選択しなければならないならば、アルパインスタイルを最初に覚えたほうが良いだろう。なお、両者の境界ははっきりしたものではなく、折衷したようなスタイルもある。注意すべきは、細いロープでアメリカンスタイル的な手法を取るなど、安全側でなく危険な組み合わせで行ってはならないことだ。
両者の具体的な比較を以下に上げる。専門用語は別途用語集を参照してください。

アメリカンスタイル アルパインスタイル
使用ロープ 11-15mm 9-10.5mm
リビレイ 無し 有り
デーヴィエイション 多少あり 積極的に使用
適した洞窟 乾燥した井戸状の竪穴 水のある複雑な形状の竪穴
プロテクター 多用する 少しは使う
トラバース、チロリアン ほとんど無い 時々使う
使用SRTシステム ミッチェル、ジャマー、3ギブス、テキサスなど フロッグ、マオ、フロッグウォークなど
システムの複雑さ 複雑で重い 単純で軽い
登高速度 早い 遅い
ロープへのシステムの装着時間 遅い 早い


 シングル・ロープ・テクニックはアセンダーやディセンダーという器具を使い、  一本のロープを昇り降りする技術のことであり、竪穴探検において使われる。  ケイビング以外でも、山岳登攀や山岳レスキュー、消防、リバーレスキュー、  軍、木登り、リバーレスキュー、窓拭きなど様々な分野でも応用され、使われ  ている。
 必要な装備には以下のものがある。個々の細かい説明について  は、他の書籍などを参照してください。
LaderAsent
標準的なSRTシス
テムを装着した
ケイバー
LaderAsent
リギングのための
装備を持つ
   
団体装備 個人装備
スタティックロープ SRTハーネス
ハンガー チェストハーネス
環付きカラビナ チェストアセンダー
7mmGoマイオン フットアセンダー
クライミングテープ ディセンダー
ロープスリング フットループ
ローププロテクター カウズテイル
ボルトキット(ハンマー、ドライバー、スピット) カラビナ
ロープバック セイフティコード


PitHeadRig1 PassDeviate1
上 : ロープバックか
ら、ロープを取り出しな
がらリギングを行う
右上: 左手に見えるY
ビレイによって一つのア
ンカーの破壊に耐える。
ケイバーはデーヴィエイ
ションを設置している。
右 : 手前の滝の水を
避けるため、平行に二本
張ったロープの片方をス
ロープチロリアンブリッ
ジにしている
WaterSlope

リギング(ロープの設置)

 ロープを洞窟の壁などに固定し、人が昇り降りできるようにする作業をリギングと呼ぶ。ロープを張る際には、ロープが洞壁に触れることがないようにする。これは、ロープは岩角に繰り返し擦られると容易に切れてしまうため、その危険を根本的に回避するためである。この危険は懸垂下降時に比べ、登高時に非常に大きくなる。すなわち、降りるは容易いが、登るのは難しいということである。どうしても岩との接触が避けられない場合には、ローププロテクターを用いて直接の接触を避ける方法もあるけれど、ピットの最上部と最下部のそれぞれ数メートル以内のみでしか、使うべきではないなど、限定された領域でしか使用できない。
 こうした岩との接触を避けるために、リビレイ、デーヴィエイション、トラバースといったテクニックが用いられる。これらのテクニックを適切に用いることで、ほとんどの場合、岩とロープとの接触を避けることが可能になる。その際、例えばロープを岩に固定したアンカーが一つ壊れてしまっても、事故にならないようバックアップを適切に設けたり、落石の起きるコースや、降水によって滝になる可能性のあるルートを避けるなどの対応が必要である。これらの安全策を正しく実施し、なおかつ必要以上に時間がかからないようにするためには、相応の経験が必要となる。特に深い竪穴であればあるほど、探検に時間が掛かるので、リギングで時間をとられ、体力を消耗することの無いようにしなければならい。


PassDeviation PassDeviation
デーヴィエイションの通過。この例では水平方向に
80cmほどロープの位置を変更している

下降(ディセント)

 下降は、ディセンダー(下降器)を用いてロープを降りることで為される。ディセンダーにはいくつか種類があるが、ラックタイプのものと SRTで使われるのはPetzl社のStopやSimpleに代表されるボビンタイプの2種類である。フリークライミングや登山で用いられることの多い、エイト環やロボット、 ATCといった物が使われることはない。
 なお現状、初心者にとって扱い易く入手し易いディセンダーという観点ではPetzl社のSTOP ディセンダー以外には選択の余地はない。
 ピッチヘッドでディセンダーをロープに取り付ける際に、転落防止のための自己確保を行ったり、下降途中にあるリビレイやディーヴィエイションなどの通過には、ある決まった手順があり、その手順を守っている限りは、落石を受ける危険のほかは、ほとんど無くなる。しかし、誤った手順で下降を行うと危険度はかなり増大することを忘れてはならない。


SRTAsent SlopeAsent
アセント。右の写真のように斜めに張られた
ロープを登ることもある

登高(アセント)

 登高は、基本的にロープに取り付けられた2-3個のアセンダー(登高器)を交互に引き上げることで行われる。この数個のアセンダーの位置関係や、ハーネスの連結方法などによって、登高のためのSRTシステムには様々なバリエーションが存在する。最も、世界で広く使われているのが、フロッグシステムである。これは登高動作が蛙に似ていることから名付けられたものだ。フロッグシステムは登高速度は遅いが、重量物を持って登れること、装備量が少なくて済むこと、ロープへの登高システムの付け外しが容易なことがある。アルパインスタイルでのリギングにおいては、頻繁にシステムの付け替えが行われるため、アルパインスタイルで広く使われている。しかしながら、アメリカンスタイルではシステムの付け替えが無く、単純な長距離の登高が多いため、登高速度を優先したミッチェルやジャマーシステムが用いられることが多い。
 登高の際にも下降時と同じくリビレイやディーヴィエイションを通過するための、手順があり、この手順を覚えていなければ安全に登高することはできないだろう。

OnRope2 OnRope1
左は救助者が負傷者のディセンダーを使い懸垂下降するところ
右は救助者が負傷者のアッセンダーを外そうとしているところ

オン・ロープ・レスキュー

 時として、SRTをおこなっている最中に落石を受けて意識を失ってしまうことなどがある。実際には、非常にレアなケースで日本では今までに報告されていないし、海外でも非常に少ない。しかしながら、常にそうした危険があるのも事実である。そういった状況に陥った場合、パーティの他の人は意識を失った人を直ちに助け出さなければならない。その際につかう技術がオン・ロープ・レスキューというものである。ロープ上で意識を失った人を助け出すのに15分程度以上かかると、生命が脅かされることがある。したがって、SRTをおこなうものはオン・ロープ・レスキューの知識を持ち、定期的に訓練をおこなわなければならない。
 オン・ロープ・レスキューといっても、様々な手法がある。別のロープを利用して助け出す方法、同じロープを上から懸垂下降して助け出す方法、逆に下から登っていって助け出す方法などがある。同じロープを使う方法は別のロープを使う方法に比べて難しいため、通常は予備のロープを携行するのが望ましい。これらのオン・ロープ・レスキューの具体的な手法については、文章や図では説明しにくいので実際に講習を受けることが望ましい。
 オン・ロープ・レスキューができないうちは1人前のSRTケイバーとは言えないということは心に留めておこう。



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