Header Menu

ケイビングの基本装備


 ケイビングで使われる基本装備について説明する。ケイビングをするためには衣服、 靴、ヘルメット、ライトがあれば良い。 それに加えて非常時用のエマージェンシーキットを携行することが基本だ。 またエマージェンシーキットや予備のライトや電池、 食料などを運ぶためにザックが必要となるだろう。 またいくらかの追加装備はケイビングを、いくらか快適で安全なものにするだろう

  • 基本装備
  • その他の追加装備
  • 食料、緊急時の対応


    OldStyle OldStyle
    綿つなぎ、内側にゴアテックス雨具を着ている
    時には、全身泥だらけになることもある

    衣類

     洞窟内で着用する衣類に対する要求は、探検する洞窟、活動内容によって変化する。 日本国内での大部分の洞窟では100%近い湿気がある。大きな暖かい洞窟の乾いた部分で探検と、 冷たい水のある洞窟での写真撮影や測量調査で要求される衣類条件は違う。 立ち止まる事の少ない探検でよりも一個所に留まる事の多い測量や写真撮影の方がより暖かい衣類を必要とする。 また国外でのケイビングの場合には、その差はさらに激しい。熱帯地方以外の高い山岳地帯では、 日本よりも気温や水温は、かなり低く氷点下に達することもある。したがってより暖かな服が必要である。 逆に熱帯の洞窟では、高い温度と湿気は、擦り傷などからの保護のためだけの、衣類で良いだろう。
     ケイビングのために着用される衣類は、2つの基本的な条件を満たさなければならない。 寒い洞窟環境においては体温を維持するために、熱を奪われないための断熱性が必要である。 また、体を摩擦とダメージから保護するための丈夫さも必要である。
     洞窟の気温や水に対して不十分な衣服であると、 命に関わる低体温症に陥ることがある。 特に水に濡れた場合には、この問題が発生し易い。
     概ね日本の洞窟では3種類の衣服が、これらの基準を満たし利用できる。



    Glove Glove
    Glove
  • 手袋

     鋭い岩や泥からの保護のために手袋を用いることが多い。 しかし、岩が刺々しい穴やディギング(洞床を掘り返し、新洞窟を発見する作業の事)などでない場合には無くても構わない。 手袋をすると、手先の器用さが失われるため、そのような器用さが必要とされる場合には外さなければならない。 手袋の手首のあたりに穴を空けておけばカラビナなどにぶら下げておく事が出来る。 手袋としては厚手のゴム、ネオプレン、PVCの手袋が耐久性があり適切である。 薄手のゴム手袋(食器洗い用)は細かな作業が出来るが、丈夫ではない。 また、安価な軍手などは、細かな作業がおこないやすく、乾燥している限りは快適であるが、 砂利や泥と共に水を吸い不快なものになってしまう。しかしながら、安価であることから予備の軍手を携帯し、 交換していくことで、ある程度は避けることは可能だ。

  • 洞口アプローチの際の衣服

     もし洞窟までの長い道のりが、寒い、風が強い、雨の天気ならば、 洞窟へ歩いていくとき着る衣服は重要である。 また疲れて、ずぶ濡れになっているかもしれない帰り道の時にも同様である。 バラクラバ帽子(目出帽)、ウールの手袋で、通常は十分であるが、 洞口で着替えることも選択肢のうちである。
     また逆に、炎天下の日差しの中を歩いていかなければならない場合、 アプローチから寒い洞窟の中のための保温性の良い衣服を着ていると、 洞口につくまでに、汗によってアンダーウェアが濡れてしまう。 こうなると寒い洞窟内に入った場合になかなか乾かず、体力の消耗の原因となる。 したがって、炎天下など暑い場合は、洞口で着替える事を考えるべきである。 寒い洞窟内から濡れて出てきた帰り道においては、着替える必要はないかもしれない。


  •  次の表は、様々なタイプの洞窟のための適当な衣類の選択の基本的なガイドである。 しかし、洞窟の気温、測量か探検かによっても違うし、 同じ洞窟でも天気の状態によって変化するので、そのことも考慮する必要がある。 気温や水温が低いほど、より多くの断熱性能を持った衣服でなければならないし、 20℃を大きく越える洞窟での激しい活動ならば、どのような衣服でも問題になることは少ない。 また洞窟の環境は場所によって変化するので多くの場合、どこかで妥協しなければならないだろう。

    様々な種類の洞窟での衣服の適合性(気温10℃強で行動時間が6時間以上の場合)
    洞窟の状態乾燥した洞窟滝と風のある洞窟 深い徒渉または水に浸かる匍匐前進のある洞窟 常に水流のある洞窟ほとんど泳がなければならない洞窟
    衣服
    トラディショナルスタイル 十分不適当危険危険危険
    ネオプレーンスーツ推薦できない推薦できない 適当風に対する防御の目出帽と共ならば適当適当。他に選択はない
    オーバースーツ+アンダースーツのコンビネーション 適当快適 もし、徒渉個所がたくさんあるなら、不適当。そうでなければ十分 顕著な徒渉ならば不適当である危険

    様々な種類の洞窟での衣服の適合性(気温20℃前後で行動時間が4時間程度の場合)
    洞窟の状態乾燥した洞窟滝と風のある洞窟 深い徒渉または水に浸かる匍匐前進のある洞窟 常に水流のある洞窟ほとんど泳がなければならない洞窟
    衣服
    トラディショナルスタイル 快適適当不適当推薦しない危険
    ネオプレーンスーツ推薦できない推薦できない 推薦しない適当適当。他に選択はない
    オーバースーツ+アンダースーツのコンビネーション 推薦しない快適 適当 十分危険


    Boot  洞窟の床は湿っていたり、泥で非常に滑りやすい。また、水に濡れることも非常に多い。 したがって、靴には十分なグリップ力と断熱性が求められる。さらに、 過酷な洞窟の中では、通常の野外で使うときに比べ著しいダメージを靴に与えてしまうため、 消耗が激しい。このことはコストパフォーマンスの点にも留意しなければならないことを示す。
     通常ケイビングではいく種類かの靴が使われ、それぞれに利点と欠点がある。 どれを選択するかは洞窟の状態によるが、多くは個人の趣味の問題でもある。

    靴下

     靴下の役割は、足の保温し、快適にしておくことである。二種類のものが使われている。ネオプレーンソックスは足が長期間水に浸るときに理想的である。しかし、乾いた洞窟では心地が悪く汗まみれになる。ループステッチのウールまたは、合成繊維のソックスはより快適である。湿った時でも暖かいままである。しかし、ずぶ濡れになると、不快である。そのような状況では、できるだけ早く外で絞るべきである。綿素材の靴下は著しく不適当である。


    Helmet Helmet

    ヘルメット

     ヘルメットは、個人の装備で不可欠なものである。そのもっとも重要な主機能は、 頭をダメージから保護することだ。その他の補助的な機能はいくつかあるが、 次に重要なのはライトを固定することだ。 そうすることで両手が自由なまま、必要な所にライトを向けることができる。 また、頭とシェルの間のスペースは、サバイバルバッグを運ぶためにちょうど良い。 さらには、洞窟の水たまりの水を汲みだす時、 バケツの代わりにひっくり返したヘルメットを使うことさえできる。
     これらの補助的な機能の全ては、ほとんどの種類のヘルメットで可能だ。 しかし頭のダメージから保護する機能は、その目的のために、 特に設計し作られたヘルメットでのみ達成される。予測されるダメージは、通路の天井、 石またはその他の物の落下、そして転落した場合の洞窟の床または壁への激突である。 この高い保護の要求は、UIAA(Union International des Associations Alpinisme)などの 規格に合格したヘルメットでのみ得られる。
     規格に合格したヘルメットには、UIAAマークがついているので、購入の際には注意しよう。 またUIAA規格でなくとも同様の性能を持つものであれば構わない。
     その他の種類のヘルメットは使用するべきではない。 たとえば、建設業で使われるヘルメットは落下物については有用であるが、 ケイビングで最も必要である転落に対しては効果が無い。 オートバイ用のヘルメットは大きく邪魔で視界が悪い。
     ヘルメットにはライトまたは電池ボックスを付ける穴が必要であるが、 できる限り少ない方が良い。
     ヘルメットは大きな衝撃を受けなかったとしても、3〜4年ごとに交換されるべきである。 これは樹脂が経年劣化を起こし強度が低下するためである。 またヘルメットに目に見えるダメージの跡が残らなくても、大きな衝撃を与えた落下物を受けたか、 転落した場合は交換しなければならない。一旦ショックを吸収し吸収能力が悪化したら、 再び元に戻ることはない。


    ライト

     ほとんど全ての洞窟は暗く、ライト無しでは行動することができない。 ケイバーは信用できる主光源と、予備の光源とを持ち歩く必要がある。 少なくとも2つ、通常は3つの光源を持つのが一般的だ。 接触不良気味で、時折消えることがあるとか、 構造的に弱く壁にぶつけると壊れてしまうような光源は信用できず、 持っている数の内には入れてはならない。
     光源には、いくつかの種類があるが、基本的には2つのタイプのみが使われる。 一つは電気式(乾電池または充電式の電池によるもの)で、もう一つはアセチレンランプである。 どのようなタイプの光源を使用するかは、探検する時間、洞窟の状態、入手し易さ、 コスト、洞窟の環境に対する配慮、充電設備があるかといった条件による。 こうした制約が無い場合は個人的な趣味の問題である。
     日本においては電池式のライトがもっとも普及している。この理由は、 電池式のライトが広く流通し、また電池が安く手に入ることが主因である。
    充電式のライトやカーバイドランプは、あまり販売されていないし、 カーバイドランプは運用コストが割高である。
     いずれの種類のライトを使うにしても、安全にケイビングを行う上で両手を開ける必要がある。 したがって、これらのライトはヘルメットに取り付けられるべきだ。 多くのヘルメットにはライトを取り付けるためのゴムバンドがついているので、 これを利用しても良いが、ヘルメットに穴を開け、 ボルトやネジなどで直接取り付ける方がより良い。
     手持ちのライトは大きなホールなどで使用する補助光源として利用可能だ。 強力な充電式のビデオライトなどが使われる。 しかしヘルメットに取り付けたライトと同程度の明るさの手持ちライトはあまり意味が無いだろう。

    Light Light Light

    電気式ライト

     電気式のライトにはいくつかの種類がある。 いずれの種類のライトでも適切にメンテナンスされなければならない。 特に電池の接点などや、 電池ボックスとランプユニットとをつなぐコードの接触不良のトラブルが多い。
    また交換電球は常に携帯しなければならない。 通常はランプユニットの中に収納できる。

    ケイビングに良く使われる様々なライトシステムの特徴
    ランプタイプ重さと光点灯時間耐久性 メンテナンス安全性コメント
    電気式ライト 単一乾電池ライト重い電球のタイプによるが10-20時間 壊れやすい電池の接点や電源コードの接触不良が多い安全 電源コードの断線が非常に多い
    単三乾電池ライト軽い電球のタイプによるが2-4時間 中間電池の接点不良が多い安全 最も良く使われるが、頻繁な電池交換が必要である;アルカリ電池を使うことが望ましい;バックアップランプとして適当
    鉛蓄電池重い最大約12時間良い 希硫酸によるやけどの危険良い 液漏れが発生しないよう注意する。液漏れは皮膚やけどやロープなどにダメージを与える
    シールド電池ユニット中間12時間程度良い良い 安全 おそらく一番良くて、一番安全なタイプの電気ライト方式
    LEDライト軽い使用電池やLED個数によるが10-数百時間良い電池式ライトと同様 安全 低消費電力、長寿命。小型。販売製品はまだ少ない
    カーバイド方式一体式軽い2-4時間程度良い 頻繁な掃除が必要異常燃焼やカーバイドの漏れによる危険がある ヘルメットのバランスが悪い;頻繁な注意を、必要とする;竪穴では不適
    分離式中間6-12時間良い掃除が重要ホースが抜けると危険 ピアゾ発火石と電気式バックアップライトのあるものが良い


    バックアップライト

     これは、任意の装備ではない。すべてのケイバーは、 すべてのケイビングについて少なくとも一つ以上運ぶべきである。 バックアップライトは、メインランプに依存せず、完全に独立しており、 ヘルメットにマウントされているべきである。



    [Next Page] [Back to Caving Basic]
    1. 頭にゴムバンドで付けられるヘッドセットのある乾電池式のライト
      電池ボックスの形態によりさらに、3種類に分けられる。
      • ランプユニットと電池ボックスが一体のタイプ
         このタイプには単三電池2本、または4本のものと、リチウム電池を用いたものとがある。 軽量で使いやすいが、電池交換を頻繁に行う必要がある。ただし、 単三電池2本の製品は暗すぎるので、あまりケイビングには向かない。 また頭の前部が重くなるため、ヘルメットによっては視界を遮ったり、 眼鏡を圧迫することがあるので注意する必要がある。
      • 後頭部に電池ボックスを取り付るタイプ
         このタイプには後頭部に単三3−4本、または単二3本、あるいはリチウム電池を用いるものがある。 電池ボックス一体の物に比べ前後バランスが良く、視界が遮られるようなことはない。その反面、 ヘルメットの前後に付属物がつく形となるので狭い場所で引っかかり易くなる。
      • 長いコードで首にぶら下げたり腰に付ける物
         このタイプは単一電池4本を用いるものが代表的であるが、単三電池やリチウム電池を用いるものもある。 単一電池を用いたものは、電池寿命が長く交換する必要がほとんど無い。しかし、 狭い場所で腰の電池ボックスが引っかかることがある。
    2. 鉱山用ランプ
       鉛バッテリーを使ったもので鉱山では良く使われるものであるが、一般には入手し難い。 コストやランニングは安いけれども、バッテリーは重く大きい。また取り扱いも注意を要する。 特に希硫酸を使うため、ロープなどのケイビングギアに致命的なダメージを与えることがある。 そうしたことから、通常はあまり使われない。
    3. シールド・リチャージ・バッテリーを使った物
       ニッカド電池を使った物が大半である。しかし、ニッカド電池は乾電池に比べ 重量エネルギー密度が低いのと、洞窟内で交換できないため、そのサイズは大きくなる。 ランニングコストは非常に安い。また乾電池に比べて多くの電流を取り出せるので、 明るくすることが可能だ。  この種のライトは適切にメンテナンスされていれば、 ほとんどトラブルがなく水にも強い。
       なお、現在ニッカド電池よりも高性能なニッケル水素電池やリチウムイオン電池があるが、 ライトとして製品化はされていない。
    4. LEDを使った物
       近年、白色の超高輝度タイプLED(発光ダイオード) が開発された事により実用化されつつある新しいタイプの照明である。  LEDの特徴は超寿命(およそ10万時間)と低消費電力(フィラメント式の1/10)である。 またLED自身が指向性を持つ光を発するので、反射板が不要となり小型化が図れる。 デメリットとしては高価であることと、低電圧での駆動ができないこと、 単体では十分な明るさを得られないので複数のLEDを必要とする事などである。
       現在日本では、キーホルダータイプの1つのLEDを使用したものをよく見かけるようになったが、 米国では既存の電球と置き換えが可能な3つのLEDを使用したものや、 6-数十個のLEDを使用したライトが開発され販売されつつある。

    カーバイドランプ

    1. Carbide Carbide カーバイドランプは、カルシウムカーバイドに水を加えた時に発生する、 アセチレンガスが燃える時の明るい白い炎を照明にするものである。遠くを照らすことは出来ないが、 明るく、また暖かい。反面、水と反応したカーバイドのゴミが発生し、 取り扱いが面倒である。反応後反応前に関わらず、カーバイドを洞内に捨ててはならない。 これは強アルカリ性で洞窟内の環境に大きな影響を及ぼすからだ。
       注意深く運べば良いのだが、時として意図しない出来事によって、 カーバイドを撒き散らしてしまう可能性がある。したがって、 特に環境上の注意を必要とする洞窟では使用が禁じられることがある。
       カーバイドランプには二つのタイプがある。 ヘルメットに全てを取り付ける一体式とタンクとノズル部分が別れている分離式である。
       一体式は、カーバイド容器、水タンクおよびノズルなどが一体になっていて、 ヘルメットに直接取り付けられる。それ故に、大きなカーバイドタンクが使用できず、 燃焼時間は短く、頻繁な燃料交換が必要である。
       分離式後者はノズル部分とカーバイドタンクが分離しており、 ノズルをヘルメットにマウントし、ホースによって腰のカーバイドタンクと接続する。 分離式ランプのいくつかのモデルは、ピアゾ電気発火器を持ち簡便に点火でき、 また乾電池式のランプのバックアップがある。
       あともう一種類、手持ち式の大きなカーバイドランプがあるがケイビングでは用いられない。
       カーバイドランプの利点は、充電を必要とせず、カーバイドが広く世界で利用できることである。 また、得られる光の質も良い。よくメンテナンスされた最適な条件においては、 一番良い明るい光源を得ることができる。カーバイドランプを使用する時には、 いくつかのメンテナンス用品や交換部品を常に運ばなければならない。 それは1本の堅いワイヤで、それを解きほぐした細い鋼線は、ノズルの掃除のために使用される。 そして、そのワイヤで掃除できない汚れや、ノズルの紛失のために、予備のノズルも運ばなければならない。 これらのものは、カーバイドランプのモデルによっては、本体に付属している。
       予備のカーバイドは、常に運ぶべきである。カーバイドは湿気でも反応してしまうので、 乾燥した状態で運ばなければならない。したがって、防水広口ボトルまたは’ラバーバッグ’で運ばれる。 ラバーバッグは30-40cmの長さのタイヤチューブから作る。 そして、同じチューブから切りだした頑丈なゴムバンドでしっかりと端を丸めてシールする。 カーバイトは小量の水だけでも多くのガスが発生するので、カーバイドは、 強固にシールドされる弾薬箱などで運んではならない。 時として、箱を爆発させる高い圧力を生じさせてしまい、著しく危険である。
       使い終わったカーバイドは、洞窟の外へ必ず持ち出す。PVC製の防水バックなどに いれて持ち出すのが良い。